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就業規則のテンプレートと重要な条項の解説
労働者である従業員が安心して働くためには就業規則の作成が欠かせません。
使用者側である企業としても、従業員に特定の制限をかけたりするのであればその根拠となる規律が必要です。
不文律のルールを一方的に押し付けたのでは従業員も納得してくれませんし、世間からの評価を落とすことにもなりかねません。
そこで法的な義務付けの有無を別にしても、就業規則の作成は重要といえます。
しかしながら「就業規則はどうやって作ればいいのかわからない」「具体的に何を記載する?」と疑問を持ったままでは作成を進められません。
そこで当記事では就業規則の重要な条項についてテンプレートを挙げていきます。
その例を参考に、就業規則のイメージを掴んでいただければと思います。
就業規則を作成する際の注意点
厚生労働省では、「モデル就業規則」として就業規則のテンプレートが公表されています。
当記事でも、令和4年11月版、厚生労働省「モデル就業規則について」を参考に、各条項の紹介をしていきます。
ただし、当記事やその他就業規則の雛型を参照して就業規則を作成するときは、丸写しにならないように注意が必要です。
就業規則は各社の実態に応じて作成すべきであり、共通する事項もあれば、まったく異なる内容になることもあります。
例えばアルバイトや契約社員などを雇うときには、別途考慮すべき事項も出てきます。
企業の事業内容によっては以下に示す遵守事項をより厳格に設定しないといけないかもしれません。
そこで、以下に示す内容はあくまで標準的な記載例であることに留意しないといけません。
服務規律に関する条項
******************** 以下、テンプレート ********************
(服務)
第〇条「労働者は、誠実に職務を遂行し、会社の指示命令に従い、職務能率の向上と職場秩序の維持に努める。」
(遵守事項)
第〇条「労働者は、以下の事項を守らなければならない。」
① 許可なく職務以外の目的で会社の施設や物品を使用しない。
② 会社の名誉や信用を損なう行為をしない。
③ 在職中及び退職後も、業務上知った機密情報を漏洩しない。
:
(個人情報保護)
第〇条「労働者は、会社や取引先等の情報管理に十分注意を払い、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。」
2「労働者は、異動または退職に際して、自らが管理していた会社や取引先等に関するデータ及び書類を返却しなければならない。」
******************** 以上、テンプレート ********************
服務規律や遵守事項は、就業規則への定めが必須とされる事項ではありません。
しかし職場における秩序維持に関わる事項であるため、「遵守事項」の条項を設け、特に守るべき事柄を具体的に列挙すると良いでしょう。
また、近年は個人情報保護の遵守も非常に重要です。
日本のみならず世界中で個人情報保護の機運が高まっており、世間の関心も高まっています。
企業のずさんな情報管理により個人情報が漏洩してしまうと、当該個人に加え企業自身も多大な損害を被ることになります。
最新の法令に準拠し、必要な遵守事項を設けましょう。
なお、個人情報の取り扱いについての具体的ルールについては「個人情報保護指針」や「プライバシーポリシー」などで別途設けておくことが大事です。
ハラスメントの禁止について
******************** 以下、テンプレート ********************
(パワーハラスメントの禁止)
第〇条「職場内での優越的地位を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動で、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。」
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第〇条「性的言動により、他の労働者に不快感や不利益を与え、就業環境を害するようなことをしてはならない。」
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第〇条「妊娠・出産・育児・介護等に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。」
******************** 以上、テンプレート ********************
各種ハラスメントを禁止する姿勢も明らかにします。
パワハラやセクハラなども注目度が高まっており、法令の整備も進んでいます。
ハラスメントが横行している企業は社会的な信用もなくしてしまいますので、これが発生しないように努め、就業規則においてもその姿勢を示しておきましょう。
また、労働施策総合推進法においても、企業にはパワハラに対する必要な措置を講ずることが求められています。
就業規則に抽象的な事項を記載するだけでなく、上の条項を基点に、具体的なハラスメント防止策も策定するようにしましょう。
労働時間や休憩・休日に関する条項
******************** 以下、テンプレート ********************
(労働時間及び休憩時間)
第〇条「労働時間は、1週間に40時間、1日に8時間とする。」
2「始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合、前日までに労働者に通知する。」
始業・終業時刻 | 休憩時間 |
---|---|
始業:〇時〇分 | 〇時〇分~〇時〇分 |
終業:〇時〇分 |
(休日)
第〇条「休日は、次のとおりとする。」
① 土曜日及び日曜日
② 国民の祝日(日曜日と重なったときはその翌日)
③ 年末年始(12月〇日~1月〇日)
④ 夏季休日(〇月〇日~〇月〇日)
⑤ その他会社が指定する日
******************** 以上、テンプレート ********************
労働時間や休憩時間、休日に関するルールは、就業規則における絶対的必要記載事項です。
有効な就業規則を作成するためには記載を必ずしないといけません。
上に示したテンプレートは、完全週休2日制を採用した企業における記載例です。
ポイントは、「始業時刻」と「終業時刻」、そして「休憩時間」を必ず明記することです。
※交替勤務制を採用するときは、勤務形態別に各時間を定める必要がある
※休憩時間の過ごし方は、従業員が自由に決められる必要がある
休日に関するルールも明記が必要ですが、「いつを休日にするのか」ということについて法令上の指定はありません。
土曜日・日曜日でなくても良いですし、週により異なる曜日を定めてもかまいません。
※休日は、原則として、0時~24時までの継続した24時間で与えないといけない
残業について
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(時間外及び休日労働等)
第〇条「業務の都合により、第〇条の所定労働時間を超え、又は第〇条の所定休日に労働させることがある。」
2「前項の場合、法定労働時間を超える労働又は法定休日における労働について、会社はあらかじめ労働者の過半数代表者と書面による労使協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署長に届け出る」。
3「妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性労働者であって請求した者、及び18歳未満の者については、第2項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後〇時~午前〇時)労働に従事させない。」
4「災害、その他避けることのできない事由により臨時の必要があるときは、第1項から前項までの制限を超え、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。」
******************** 以上、テンプレート ********************
残業や休日出勤についても明記します。
法定労働時間は原則として「40時間/週」「8時間/日」です。
この時間を超える、あるいは法定休日である「週1回または4週4日の休日」に労働させるときは、労基法に基づいて労使協定を締結しないといけません。
これはいわゆる「三六協定」のことです。
また、協定の締結だけでなく、届出も法的義務とされています。
休業について
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(産前産後の休業)
第〇条「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性労働者から請求があったときは、休業させる。」
2「産後8週間を経過していない女性労働者は、就業させない。」
3「前項の規定にかかわらず、産後6週間を経過した女性労働者から請求があったとき、医師が支障ないと認める業務に就かせることができる。」
(慶弔休暇)
第〇条「労働者が申請した場合は、次のとおり慶弔休暇を与える。」
本人が結婚した | 〇日 |
妻が出産した | 〇日 |
配偶者や子、父母が死亡した | 〇日 |
その他親族が死亡した | 〇日 |
(病気休暇)
第〇条「労働者が職務外で負った負傷、又は疾病のために療養が必要な場合、病気休暇を〇日与える。」
******************** 以上、テンプレート ********************
上の「病気休暇」については法令上定めることが求められている条項ではありません。
各社が自由に定めることができ、あるいはこれを定めないことができます。
一方、「産前産後の休業」に関しては、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産の予定がある従業員が請求をしたとき、企業は就業させてはいけないと法定されています。
続く、上記の第2項および第3項に関しても法定されている内容に沿っています。
また、これら産前産後の休業等を取得したことを理由に、不利益な取扱いをしてはいけません。
賃金に関する条項
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(基本給)
第〇条「基本給は、職務内容・技能・勤務成績等を考慮して個別に定める。」
(割増賃金)
第〇条「時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。」
:
(欠勤等の扱い)
第〇条「欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。」
2「前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。」
基本給÷1ヶ月平均所定労働時間数
(賃金の計算期間と支払日)
第〇条「賃金は、毎月〇日に締め切り、翌月〇日に支払う。ただし、支払日が休日に当たるときは、その前日に繰り上げて支払う。」
2「前項の計算期間の中途で採用された労働者又は退職した労働者は、日割計算して支払う。」
******************** 以上、テンプレート ********************
給与の決定や計算、支払方法、締切りと支払の時期は、いずれも絶対的必要記載事項です。
各社でルールを定めることができますが、最低賃金法に基づく最低賃金を下回ってはいけません。
また「割増賃金」については、法定労働時間を超えて働かせた、または深夜労働をさせたときは「2割5分以上」の割増率で計算した割増賃金の支払いが必要です。
※法定休日に労働させたときは「3割5分以上」の割増率で計算する
また給与は毎月1回以上であって、一定の支払日を定めて支払わなければなりません。
昇給や賞与について
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(昇給)
第〇条「昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。」
2「昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人個別に定める。」
(賞与)
第〇条「賞与は、会社の業績等を勘案して、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対して支給する。」
算定対象期間 | 支給日 |
---|---|
〇月〇日~〇月〇日 | 〇月〇日 |
〇月〇日~〇月〇日 | 〇月〇日 |
2「前項の賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績を考慮して各人個別に定める。」
******************** 以上、テンプレート ********************
昇給に関する条項は絶対的必要記載事項です。就業規則にて、必ず昇給期間等など、昇給の条件を定めましょう。
賞与、いわゆる「ボーナス」は、法令上定めることが義務付けられているものではありません。
しかしボーナスの支給を定めるのであれば、算定基準や支払い方法などを明記しておく必要があります。
退職に関する条項
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(定年等)
第〇条「労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。」
2「前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満70歳までこれを継続雇用する。」
(退職)
第〇条「労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。」
① 退職を申し出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して〇日が経過したとき
② 有期雇用においてその期間を満了したとき
③ 死亡したとき
:
2「労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間・業務の種類・地位・賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。」
******************** 以上、テンプレート ********************
退職に関するルールも、就業規則における絶対的必要記載事項です。
定年に関しては、例の通りに「満65歳」とする必要はありません。
「満70歳」とすることもできます。
ただし60歳を下回ることは認められません。
また、従業員はいつでも退職を申し出ることができ、会社の承認が得られない場合でも原則として14日を経過したときは退職の扱いとなります。
その旨も明記しておくと良いでしょう。
解雇について
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(解雇)
第〇条「労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。」
① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みもないとき。
② 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
③ やむを得ない事由により事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。
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2「前項の規定により解雇をするときは、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。」
3「第1項の規定による労働者の解雇に際して労働者から請求があったときは、解雇の理由を記載した証明書を交付する。」
******************** 以上、テンプレート ********************
解雇に関するルールも就業規則における絶対的必要記載事項です。
ただし、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとも認められない内容となってはいけません。
「どんな内容でもあらかじめ定めておけば有効になる」ということはありません。
また、従業員を解雇するなら、30日以上前に予告をしないといけません。
これを省略するときは「解雇予告手当」の支払いが必要です。
ただし以下の従業員については予告の必要がないとされています。
- 日雇いの従業員
※通算1月を超えた者は除く - 2ヶ月以内の有期雇用
※所定の期間を超えた者は除く - シーズンごとの業務に従事する従業員であって、4ヶ月以内の有期雇用
※所定の期間を超えた者は除く - 使用期間中の従業員
※14日を超えた者は除く
制裁に関する条項
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(懲戒事由)
〇条「労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。」
① 正当な理由なく、無断欠勤が〇日以上続くとき。
② 過失により会社に損害を与えたとき。
③ 素行不良により職場の秩序・風紀を乱したとき。
:
2「労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、減給又は出勤停止とすることがある。」
① 重大な経歴詐称により雇用されていたとき。
② 正当な理由なく、しばしば業務上の指示や命令に従わなかったとき。
③ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
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懲戒処分などの制裁については、絶対的必要記載事項ではありません。
ただし「相対的必要記載事項」にあたりますので、制裁を有効に課すのであれば、就業規則に明記しておく必要があります。
懲戒処分に関しては従業員とトラブルになるリスクが高いため、就業規則でその条件等を具体的に定めておくことが望ましいです。
根拠が明確でない、あるいは行為の重大性に対して制裁が重くバランスが取れていないと思われる場合にも揉める可能性があります。
就業規則の作成は専門家に相談
就業規則の作成は、企業に課された法令上の義務を果たすという意味でももちろん重要ですが、労使トラブルを防止するためにもとても重要です。
ただ、労使トラブル防止の実効性を高めるためには、各社の実態に合わせた内容になっている必要があります。
作成当初は実態に即していたものでも、定期的な見直しを行うようにしましょう。
その体制を整えることで、法改正があったときでもスムーズに対応できるでしょう。
社内での対応が難しいときは、弁護士に相談しましょう。
特に労働事件の実績が豊富な弁護士への相談がおすすめです。
自社の状況をまずは伝え、どのような就業規則を作成するのが最適か、アドバイスを求めます。
ヒアリングを通して、企業の希望に沿ったサポートが受けられ、自社だけの就業規則を作成することができるでしょう。